ねこ先生の連載『インターネットと歴史』の第四回目です。
実は…今日もパソコン通信ネタだったりします。この間、この連載の話をねこ先生とした時、追加で出てくるパソコン通信話が面白かったので、リンあれ読者さんにも聞かせたいなぁと思って、私からねこ先生にちょっとお願いしてみました。(*´д`*)

そして今回は、今まで明かされなかったねこ先生の過去の話がリンあれに登場します。(私としては、それがちょっとドキドキしてますがw)

それでは、お読みください。

《ユコびんでもわかるインターネットと通信の歴史》電話とインターネット

(1)インターネット以前の通信事情をごく簡単に

ねこ先生プロフ

〜序文
1)携帯電話が普及するまでの電話事情
2)携帯電話の普及
3)パソコン通信 
4)パソコン通信とインターネットの文化の違い

ユコびんでも分かるインターネットと通信の歴史、これまでのエントリを読んでいない方は、こちらからどうぞ。
《ユコびんでもわかるインターネットと通信の歴史①》電話とインターネット
《ユコびんでもわかるインターネットと通信の歴史②》電話とインターネット / パソコン通信 〜ねこ先生連載
《ユコびんでもわかるインターネットと通信の歴史③》パソコン通信とインターネットの文化の違い

5)パソコン通信についてもう少し

 また予告と違いますが・・・ゆこびんが「パソ通についてもっと教えて」ということですので、もう少し掘り下げてみましょう。

 日本でインターネットのプロバイダーが一般にインターネットの接続サービスを開始した94年頃からしばらくは、インターネット周辺にいた人たちの多くがパソコン通信出身者でした(そのあたりは、次々回に書きます)。そういう意味でも、ゆこびんも少し興味が湧いたのだろうと思います。

 前回も述べましたが、パソコン通信とひとまとめにして性格を論じるのはやや困難です。最終的に最大の会員を擁したニフティとPC-VANでは、集まっている人たちも性格も違いました。ニフティのフォーラムに参加したものの、敷居の高さ(私は「スノッブさ」と表現します)に嫌気がさしてすぐにやめてしまった人も少なくありませんし、PC-VANに参加して、ある種の殺伐とした論争に疲れてニフティに移った人もたくさんいます。PC-VANの方が現在のインターネットに参加している人たちの意識に近かったかもしれませんが、それでも閉鎖された空間ですから、何か問題発言をした人たちに対する対応も、今のような「炎上」「祭り」とはやや性格が異なりました。PC-VANとニフティのどちらがよかったか、ということを論じても意味がないのでそうした比較はしませんが、どちらかというと趣味の世界を楽しむのであれば、ニフティの方が「楽だ」と思う人が多かったのではないかと思います。

 私は、パソコン通信の「良さ」を十分に享受した経験をしています。それは、神戸の震災の時のことでした。当時、私はパソコン通信とインターネットの両方を使っていましたが、震災直後に専門分野を活かしたヴォランティアをしたいと思い、両者を調べたり発信したりしました。結果的に、パソコン通信上での呼びかけに応える形で10人ほどでヴォランティアグループを作り、1月下旬から活動を始めました。

 震災直後から、こうした呼びかけは、パソコン通信上でもインターネットでも、様々な形で行われていました。私がニフティでの呼びかけをきっかけにヴォランティアグループを作ったのは、やり取りをしている間に呼びかけに応じた人たちの背景がある程度確信が持てたからです。パソコン通信をしている人たちのほとんどはなんらかの形でフォーラムに所属していましたから、その人たちが得意とすること、どんな発言をしているかなどをある程度掌握することができたのです。グループの中核になった3人は、パソコン通信でそれまで積極的に発言をしていた人でした。もちろん、震災後に知り合ったのですが、そうした情報を共有できたことは、最初からある程度の信頼関係を持って活動がスタートできたことの大きな要因でした。結果として、神戸での最初のミーティングから、各人の専門性を活かした話し合いを持つことができ、スムースに活動に入ることができました。「インターネットならもっと広がりがあって、たくさんの人が集まるよ」という意見も多く、活動の途中からインターネットでのヴォランティア募集もかけてみたのですが、集まった人たちは(せっかく参加しようとしてくださった方たちにはとても申し訳ない言い方なのですが)玉石混淆で、すぐにお引き取り願わなければならない人もたくさんいました。これが「無限に広がっている」ことの難しさでもあります。(これ以上の具体的な情報は、私の素性がばれてしまう可能性が強いので、割愛させてください)

 こうしたニフティのメリットは、デメリットの裏返しでもありました。「敷居が高い」「snobbishだ」というパソコン通信(特にニフティ)に対する嫌悪感と、参加することに一定のハードルを課すことによって得られる安心感は表裏一体のものです。それは(実態がどうであるかということはおいておいて)、Facebookが「実名登録制」によって、「実名は嫌だ」という人以外に安心感を与えたことでもわかります。

 私のようにパソコン通信をあれこれと使いこなしていた人間にとっては、それが「snobbish」であろうとも、とっかかりとしては悪くないものでした。しかし、あるフォーラムで運営サイドの特権意識が強くなってその周囲の参加者たちがどうしても我慢できなくなったとき、パソコン通信そのものの終焉を感じて、インターネットに全面的に移行しました。

 私は、インターネットが広がるにつれてパソコン通信の意義が薄れていく中で、パソコン通信という場は生き残ってほしいと思っていたひとりです。しかし私が望んでいたのは、ニフティがやろうとしたようにインターネットの中に擬似的にパソコン通信の「やり方」を作り出すのではなく、パソコン通信が持っている「敷居の高さ」を少しずつ下げながらも「顔が見える」ある程度の閉鎖系のネットワークを維持する方向でした。時をあけてFacebookが似て非なる「敷居」を作り出して普及しましたが、せっかく作り上げたパソコン通信の文化は、その「安心感」を維持しながら広がっていく方向性を呈示できないことによって廃れてしまったのです。

 パソコン通信についての最後(本当に最後にします)に、パソコン通信上でのトラブルについていくつか書いておきましょう。

 パソコン通信の運営についてのトラブルは、訴訟に発展したものも含め、かなりたくさんありました。一部の例外を除いて、一部の会員の書き込みが名誉毀損に当たるか、それを放置した運営側に責任があるか、ということが問題とされたものが多かったようです。有名なのは、ニフティでは「現代思想フォーラム」の一件、PC-VANでは「SIGレディ紛争」と呼ばれたものです。いずれも、一般紙や雑誌にもかなり取り上げられたので、ご存知の方も多いかもしれません。

 ネット上の書き込みが名誉毀損に当たるかどうか(付随して経済上の損害が生じるか)、また、書き込みを管理者が放置することによって管理者責任が問われるか、という問題は、現在でも2チャンネルなどで多くの裁判が起こされて(進行して)います。この新しいテーマは、パソコン通信で初めて登場したもので、ある意味で先例になっています。(もっとも、まだまだ手探りのところが多いのですが。)中には、対抗言論の法理(言論によって自分の名誉を毀損された場合でも、同じ立場で反論して自分の名誉回復が期待できるのであればそれをすべきであり、それを放棄した以上名誉毀損は成立しない、という解釈。名誉毀損を簡単に認めると自由な意見表明が阻害される、という観点から、名誉毀損の成立を限定的にとらえたもの)を認めた新しい判例もあり(認めなかったものもある)、現在のインターネット社会でも容易に起こりうる事例の先駆けでした。

 名誉毀損をどのような条件で認めるのかは、法曹の専門家でも意見が食い違うことがよくあります。真実であるかどうかなどの内容が問題になるだけでなく、実際にどのような被害があったのか、回復可能性がどのくらいある(ない)のか、公表された対象者やその内容に社会性があるのかないのか、など、考慮すべき点がたくさんあるからです。(1960年代の三島由紀夫の小説にまつわる「宴の後」の事件、「噂の真相」事件、ロス疑惑にまつわる三浦和義氏と週刊文春などの事件などは、みなさんもご存知かと思います)そのような難しさがあるので、パソコン通信の事件も社会的に大きな話題になったのでした。

 これらのトラブルと判例、論評などは、ある意味でネット社会での言論の自由とその限界を知るよい事例です。機会があれば、少し興味を持っていただいても良いかもしれません。

***

 次回は「本当に」インターネット初期の話です(笑)

前回のねこ先生の寄稿エントリ
docomoのiPhoneとアップルの「進化」 (寄稿:ねこ先生)【リンあれ三周年企画】 

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